【歯科医師が教える】放置は危険？親知らずを「抜く」「抜かない」選択肢の判断基準と理由

そんなふうに感じていませんか？

10代後半から20代前半にかけて生えてくる、親知らず
近年は顎が小さい人が増え、まっすぐ生えるスペースが足りずに埋まったままや斜めに生えてしまいます。

そんな状態ではむし歯や歯周病のリスクが高く、隣の歯にまで悪影響を及ぼします。

しかし、実際に抜くべきなのか、そのままにしていいのか判断に困りますよね。

歯科医院で多くの患者さんと接していると「親知らずは抜いたほうがいいですか？」と聞かれることが多くあります。

親知らずを残すかどうかで悩んでいるのはあなただけではなく、みんな悩んでいます。

「親知らず＝抜くもの」というイメージがありますが、実はすべてを抜く必要はありません。
きちんと磨けてトラブルがない親知らずなら、将来に他の歯を守る「予備の歯」として残しておく選択もあります。

一方で、放置することで虫歯や歯ぐきの炎症、隣の歯の破壊（歯根吸収）など、取り返しのつかないトラブルを引き起こすことも。

この記事では、歯科医師の立場から次のポイントを解説します。

• 親知らずとはどんな歯なのか、なぜトラブルが起こりやすいのか
• 親知らずの生え方別にみる、「抜いたほうがいい場合」と「抜かなくてもいい場合」の判断基準
• 親知らずを抜くときに知っておきたい、歯科医院・口腔外科の選び方と注意点

親知らずとは？

親知らずは、医学的には第三大臼歯と呼ばれる奥歯です。

多くは10代後半から20代前半に生えてきますが、人によっては20代後半〜30代になってようやく顔を出すこともあり、「親に知られずに生えてくる歯」という名前の由来があります。

顎が小さくなった現代人には親知らずが正しい位置に収まるスペースがありません。
その結果、次のようなトラブルが起こりやすくなります。

• 炎症で腫れや痛みを引き起こす
• 横向きに倒れて、歯並びや隣の歯に悪影響を及ぼす
• 一部だけ歯ぐきから見えて汚れがたまりむし歯になる

しかし、すべての親知らずを抜く必要はありません。
しっかり磨けて、かみ合わせにも問題がない場合は、他の歯と同じように残せることもあります。

親知らずの生え方パターン別解説

正常にまっすぐ生えている

まっすぐに生えている親知らずは、他の歯と同様に食事に活躍してくれます。

そのため抜歯の必要性は低いです。

このパターンは歯の生えるあごのスペースがしっかりある、男の人によく見られる傾向があります。

ただし、奥にあるため歯磨きが難しく、虫歯になりやすい点には注意が必要です。
治療器具が届きにくく、虫歯が進行すると治療が困難になります。

歯科医院で定期的にチェックし、汚れが残っていないか確認しましょう。

歯ぐきの中に完全に埋まっている（完全埋伏）

歯ぐきの中に完全に埋まっている親知らずは、歯ぐきと骨が歯を覆っているため、細菌が入りづらくトラブルは少ない傾向にあります。

また、抜歯の難易度が高く、抜歯するときのリスクが大きい歯科医師がと判断して、定期観察を勧めることもあります。

ただし、まれに嚢胞（のうほう）と呼ばれるできものが生じることもあるため、定期的なレントゲンチェックが必要です。

このように「親知らず＝必ず抜く」というわけではありません。

歯ぐきから一部だけ顔を出している（半埋伏）

最もトラブルを起こしやすい状態です。

歯ぐきから、親知らずの頭が一部分だけ見えていてい他の大部分は歯ぐきの下に隠れているパターンです。

これは歯ぐきの隙間から汚れが入りやすく、かつ汚れを歯磨きで落としにくいため、歯ぐきが腫れやすくなります。

このような親知らずを磨けない状態が続くと、歯ぐきが腫れて頭痛、発熱を伴うこともあります。

繰り返すようなら抜歯を検討しましょう。

【歯科医師が断言】「抜いたほうがいい」ケースと放置のリスク

親知らずを放置することは、あなたの健康な歯や顎の骨を危険にさらす可能性があります。
特に20〜30代は炎症の進行が早く、症状が出る頃にはすでに手遅れということも！

抜歯を強く推奨する「絶対に抜くべき」5つのケース

歯ぐきの腫れを繰り返す場合

腫れる原因は、汚れが普段から蓄積しているためです。
体が疲れたとき、風邪を引いたような免疫が下がったタイミングで腫れを起こします。

軽度なうちは薬でおさまりますが、再発を繰り返すうちに頬が大きく腫れ、口が開かなくなるケースもあります。

ある日、突然頬が膨らむほど腫れたり。頭痛にまで発展してから歯科医院に飛び込んでくる患者さんは少なくありません。

「すぐに抜いてほしい」と希望される方もいますが、腫れているときは麻酔が効きにくく、その場では抜けません。
薬で炎症をおさめてから後日に抜くことになります。

親知らずが大きな虫歯になってしまった場合

親知らずは奥まった場所に生えていて、歯磨きが難しく汚れがたまるため、虫歯になることが多い歯です。

気づいたときには歯の奥の神経まで虫歯が進んでいることも。

咬む面の軽度な虫歯なら治療できる場合もありますが、
・虫歯が大きい
・歯の裏面のむし歯
このような場合は、器具が届かず治療は困難で、抜くことを提案します。

わたし自身含め、歯科医師も極力歯は抜きたくないとは考えていますが、治療が困難である以上、むし歯になってしまった親知らずは抜くことが第一選択になります。

隣の歯を脅かす場合

斜めや横に倒れてる親知らずは、隣の健康な12歳臼歯を横から強く押したり、ぶつかった部分の歯の根っこを吸収して壊してしまうことがあります。

この「歯根吸収」は元に戻りません。

進行すると、親知らずだけでなく手前の歯も抜かなければならない最悪の事態になるため、早期の抜歯が必須です。

歯並び・噛み合わせに悪影響を及ぼしている場合

矯正治療を行うときに、親知らずは邪魔になることがあります。

矯正の治療計画の中で、親知らずを活かすこともありますが、基本的には矯正治療を行うなら親知らずは抜くことをお勧めします。

矯正治療では手前に斜めになっている歯を起こしたり、歯を並べるスペースを作るために数ミリ奥歯を後ろに移動させることがあるため、その場合は親知らずがあると歯の移動を妨げてしまい矯正治療がスムーズに進められなくなってしまう危険があるのです。

また、親知らずの成長によって手前の歯が押されて歯並びが乱れる可能性があります。

もともと歯並びが悪くなかった人が親知らずが成長する２０代ごろに歯並びが乱れてくる場合は、親知らずも原因の１つかもしれません。

矯正治療が終わってきれいに並べた後に、親知らずによって押されることもあるので、歯並びが乱れないように予防的に抜いておく意味合いもあります。

抜歯を「放置」した場合の具体的なリスクとデメリット

隣接する歯の歯根吸収の危険性

一番危険な状態です。

手前の歯が親知らずで食われている場合は、軽度であれば親知らずを抜いて済む場合もありますが、進んでしまうと手前の歯もう失ってしまうかもしれません。

虫歯や歯周病の悪化による顎の骨の破壊

親知らずがあると汚れがたまるため歯周病が進行したり、虫歯になることでその周りの骨が溶かされて歯だけの問題ではなくなってきます。

親知らずが虫歯であれば抜けば解決しますが、溶かされたあごの骨が完全に回復することは困難です。

また手前の歯に歯石が付いた場合は、取るのが難しく歯周外科という歯ぐきを開いてきれいにする手術の必要性が出てくるかもしれません。

炎症が顎関節症や全身の健康に波及する可能性

下の親知らずの腫れが重度の場合に炎症が大きくなると、気道周囲が腫れて呼吸困難になることがあります。

稀な事例ではありますが、そこまで重篤化した場合は緊急入院になります。

年齢を重ねるごとに抜歯の難易度が上がり、回復が遅くなること

親知らずを抜く場合、年齢が若い時の方が抜いた後の骨の直りが抜群です。
かつ若い時は骨の弾力もあり高齢の方と比較して抜きやすい傾向があります。

特に骨の治りは重要です。

親知らずを抜いた後、骨がしっかり治らないと手前の歯を支える骨の量が減ってしまいます。

【抜かなくてもいい】残す選択肢のメリットとデメリット

「親知らず＝悪者」と思われがちですが、すべてがそうではありません。
状態によっては、残すことで他の歯を守る役割を果たすこともあります。

親知らずを「抜かなくてもいい」3つのケース

まっすぐ生えていて、しっかり機能している

あごの骨のスペースがしっかりあれば、親知らずもまっすぐに他の歯と同様生えてくることが多いです。

上下の親知らずがまっすぐに生えて咬みあっていれば、歯の機能をしっかり果たしてくれます。

基本的に歯は一番奥の歯が咬む力によるダメージを受けやすいため、親知らずが機能していれば手前の１２歳臼歯を咬む力から守ってくれるでしょう。

さらに、将来的に奥歯を失ったときには「親知らずを移植」して使える可能性も！
移植（自家歯牙移植）は、健康な親知らずを抜いて、失った部分に植え替える治療法です。

きれいに埋伏しており、トラブルがない

骨の中に完全に埋まっている親知らずは汚れも入っていく入り口がないため、腫れるリスクも低めです。

このようにトラブルの危険性が少ない親知らずは、抜くとときのリスクと天秤にかけて、そのままにしておくことがあります。

ただし、念のため定期的にレントゲンで確認しておくと安心です。

十分なセルフケア（ブラッシング）ができている

親知らずのトラブルの原因の多くは「親知らず　磨けない」こと。

奥の奥まで磨けて、歯ぐきに炎症がない場合は残す選択も可能です。

ワンタフトブラシなどの専用ブラシで、丁寧にケアを続けましょう。

親知らずを残す場合の注意点

親知らずを残す決断をしたら、徹底的な歯ブラシが必須です。

普通の歯ブラシのみでは、奥まった親知らず周りを完全にきれいにすることは非常に困難です。

そのため、今の状況で歯磨きができているか歯科医院でチェックを受けましょう。

磨けていない場合は歯ブラシの方法を相談しながら自分に合ったケア方法を見つけてくださいね。

おすすめのケア用品としてはワンタフトブラシです。

歯ブラシの頭部分が小さく狭い親知らず周りにも毛先が届きます。

また、定期的な検診も必須です。万が一親知らずが虫歯になってしまった場合、軽度であれば治療が簡単で虫歯を取り除くことができるかもしれません。

しかし、大きな虫歯になると抜歯が視野に入ってきて手遅れになってしまいます。

半年から１年ごとの検診がおすすめです。

抜歯の次の一歩：歯科医院の選び方

どこで抜くべき？

まっすぐな親知らずは一般治療を行っている町の歯科医院でも抜くことは可能です。

しかし斜めに生えている、骨に埋まっている親知らずは、歯ぐきを開いて骨を削って抜く必要があります。

手術の分類になるため、病院に入っている口腔外科や口腔外科の専門の先生が所属している歯科医院でしか対応していないことがあります。

CT撮影ができるかどうかの重要性

親知らずは形が複雑で抜きにくい形をしていることが多いです。

また、下の親知らずは太い顎の神経が近くにあるため、抜くときに傷つけないよう位置関係をしっかり確認しておく必要があります。

横から撮影する一般的なパノラマ撮影では立体的な顎の神経との位置関係は分からないためCT撮影ができる歯科医院だと安心です。

抜歯が怖い時に役立つ、寝ている間に抜歯をする「静脈鎮静」「全身麻酔」

歯を抜くのが怖いことは当たり前の感情です。

怖すぎて口を開けられない、具合が悪くなってしまうような歯科恐怖症の人は寝ている間に抜歯ができる静脈鎮静法や全身麻酔を併用することも選択できます。

しかし全身麻酔は病院規模の施設でしかできないことが多いです。

寝ている間に治療が終わるため心理的負担は少ないです。

• 口腔外科の先生が所属しているかどうか
• CTの機械があるかどうか
• 静脈鎮静をおこなっているか

歯科医院のホームページに記載されていることが多いため、近くの歯科医院を調べてみて下さいね。

大きな病院の口腔外科での治療は紹介状がないと対応できない仕組みになっているため、近隣の歯科医院で診察を受けて、紹介状をもらうようにしましょう。

親知らずの対処早見表

状態	対応	理由
まっすぐ生えて噛めている	残す選択もOK	清掃ができていれば問題なし。
半分だけ出ていて磨けない	抜歯を検討	智歯周囲炎を繰り返しやすく、腫れ・痛みの原因に
横向き・倒れている	抜歯を推奨	隣の歯の根を壊す（歯根吸収）リスクが高い
完全に埋まっている	経過観察	トラブルは少ないが、定期チェック
虫歯や腫れを何度も起こす	抜歯を強く推奨	繰り返す炎症は放置NG。骨まで炎症が広がることも

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💡親知らずの判断ポイントまとめ

親知らずは、「生えている＝抜くべき」「痛くない＝放置していい」と単純に判断できる歯ではありません。
生え方・磨けているか・炎症や虫歯の有無・年齢によって、残す選択がベストな場合もあれば、早めに抜いたほうが将来のリスクを減らせる場合もあります。

特に注意したいのは、

• 半分だけ出ていて磨きにくい親知らず
• 腫れや痛みを繰り返している親知らず
• 隣の歯に悪影響を与えている親知らず

これらは放置することで、親知らずだけでなく健康な歯まで失う原因になりかねません。

一方で、まっすぐ生えていてトラブルのない親知らずは、

• 咬む力を分散に貢献してくれる
• 将来の移植に使える可能性がある
  といったメリットもあり、丁寧なケアと定期チェックを前提に残す選択も十分に考えられます。

「抜く・抜かない」で迷ったときこそ、自己判断せず、レントゲンやCTを用いた専門的な診断を受けることが大切です。
そして残すと決めた場合は、ワンタフトブラシなどを活用した徹底したセルフケアと、定期的な歯科受診を忘れないようにしましょう。